大判例

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東京高等裁判所 平成8年(ネ)3009号 判決 1996年12月10日

控訴人

大橋一公

大橋美恵子

大橋三一

大橋カ子ヨ

右四名訴訟代理人弁護士

三枝三重子

中村玲子

被控訴人

大橋三男

大橋興業株式会社

右代表者代表取締役

大橋三男

右両名訴訟代理人弁護士

平野義耀

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人大橋一公及び同大橋美恵子と被控訴人大橋三男との間で、同控訴人らが被控訴人大橋興業株式会社の株式各八〇〇株を有する株主であることを確認する。

2  控訴人らの被控訴人大橋興業株式会社に対する請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、第一、二審を通じ、控訴人大橋一公及び同大橋美恵子と被控訴人大橋三男との間においては、同控訴人らに生じた費用の二分の一を同被控訴人の負担とし、その余は各自の負担とし、控訴人らと被控訴人大橋興業株式会社との間においては、控訴人らの負担とする。

事実及び理由

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人ら

(一)  原判決を取り消す。

(二)  主文第一項1に同じ(控訴人大橋一公及び同大橋美恵子)。

(三)  平成四年一月二八日に開催された被控訴人大橋興業株式会社(以下「被控訴会社」という。)の臨時株主総会における、被控訴会社の発行する株式の総数を四万株とし、すべて額面普通株式とする旨の定款変更決議及び取締役に大橋稔、大橋映里子、門倉洋一、吉田代子及び大橋三一を選任する旨の決議をいずれも取り消す。

2  被控訴人ら

本件各控訴棄却

二  事案の概要

本件は、被控訴人三男からその孫に当たる控訴人一公及び同美恵子に対する被控訴会社の株式の贈与がされた等として、当該株主権確認が請求され、かつ、本店所在地又は隣接地でない場所で開催され、また、控訴人一公及び同美恵子の代理人による株主としての議決権行使を拒否してされた瑕疵がある等として、前記の被控訴会社の臨時株主総会(以下「本件総会」という。)における前記定款変更及び取締役選任決議(以下「本件定款変更決議」及び「本件取締役選任決議」という。)の取消しが請求された事案である。

原判決は、右贈与の事実は認定できないとして、控訴人一公及び同美恵子の株主権確認請求を棄却し、また、決議取消請求につき、同控訴人らは被控訴会社の株主とは認められないとして、同控訴人らの請求に係る訴えを却下し、同三一及び同カ子ヨの請求については、瑕疵が重大でなく、決議に影響を及ばさないとして、これを棄却した。

右のほか、本件の事案の概要は、控訴人らが、当審において、次のとおり主張するほか、原判決該当欄記載のとおり(ただし、原判決六頁六、七行目「、三一による第一事件原告大橋一公(一公)の」を削除する。)であるから、これを引用する。

(控訴人らの主張)

1  控訴人一公及び同美恵子に対する株式譲渡を認めなかった原判決は、事実誤認である。

すなわち、本件において、被控訴人三男が控訴人一公及び同美恵子に対してした被控訴会社の株式の贈与は、三男の包括的な贈与の意思表示に対し、同控訴人らの法定代理人において、贈与を受ける具体的な株式数は三男の指定した数量に委ねる趣旨の受諾の意思表示をし、その後、三男が毎年確定申告書中の株式明細書に同控訴人らの取得株式数を記載して行くことによって、その履行がされたものである。贈与という無償行為の特質を考えれば、このような包括的な意思表示の合致による契約の成立を否定する必要はない。三男が有効な贈与をしたことを認めている大橋映里子らの同族の者に対しても、右と同じ方法によって贈与がされているのであって、同控訴人らに対してのみ贈与の意思表示が存在しないとすることはできない。

そして、被控訴人三男は、横浜地方裁判所小田原支部の別件訴訟において提出した反訴答弁書においても、同控訴人らが株主であることを肯定していたし、平成四年一月、本件株主総会招集に関連して控訴人三一に宛てた書簡(甲第三号証)においても、同控訴人らが株主であることを否定していないが、この事実は、右贈与の存在を裏付けるものである。

2  仮に、被控訴人三男の内心において、右贈与の意思がなかったとしても、それは心裡留保に過ぎず、贈与は有効である。

3  仮に、右贈与が成立しないとしても、本件において、控訴人一公、同美恵子の株主権を否定することは、信義則及び禁反言の原則に反し、許されない。

三  当裁判所の判断

1  被控訴人一公及び同美恵子の株主権について

(一)  事実関係

証拠(甲第一号証、第三号証、第六、第七号証、第九号証の一ないし四、第一〇号証、乙第一号証、第六ないし第八号証、第九号証の一ないし五、第一〇ないし一三号証、第一四号証の一ないし三、第一五号証の一ないし四、第一八号証、第一九号証の一、二、第二〇号証、第二二号証の一、二、第二五号証の一ないし三、第二六ないし第二九号証、証人大橋享子[原審]、控訴人大橋カ子ヨ[原審]、被控訴人本人兼被控訴会社代表者大橋三男[原審第一、二回])を総合すると、次の事実を認めることができる。

(1) 被控訴人三男(大正五年一〇月一六日生)は、昭和一五年四月二二日、控訴人カ子ヨ(大正九年三月二一日生)と婚姻し、二人の間に、長男三一(控訴人)、二男碵男、長女嶺子、二女賜子が出生した。控訴人三一は、昭和四四年一一月二〇日、享子と婚姻し、昭和四五年一二月三日に控訴人一公(長男)を、昭和四七年八月七日に控訴人美恵子(長女)をもうけた。

被控訴人三男は、昭和三八年頃から、被控訴会社の事務員であった門倉昭子と親しくなり、同四〇年五月頃から控訴人カ子ヨと別居して、昭子と同棲し、昭子が昭和四五年四月二五日に出産した大橋映里子を同年五月に認知した。

(2) 被控訴会社は、昭和二七年八月設立された(当時の商号は大橋ファスナー工業株式会社)。当初の資本金は七〇万円(額面五〇〇円の株式一四〇〇株)であったが、その後増資を重ね、昭和三五年五月以降の資本金は五〇〇万円(発行済み株式総数は一万株)となった。被控訴会社は、現在まで株券を発行していない。

(3) 被控訴会社は、被控訴人三男が主宰し、発展させてきた会社である。設立当初の株主には地元奈良県の親類縁者も相当数を連ねていたが、昭和三五年五月の増資以降、被控訴人三男は、株主が死亡するなどのたびにその株式を引き取り、自己の所有株を増やしてきた。昭和四〇年六月三〇日現在の被控訴会社の株主名簿によると、被控訴人三男の所有株式数は、二一二〇株、控訴人カ子ヨ、同三一のそれは、それぞれ三四〇株、六〇〇株である。

その後も、右の傾向は続いていたが、被控訴人三男は、毎年提出する被控訴会社の確定申告書(事業年度・毎年七月一日から翌年六月三〇日まで)中の「同族会社の判定に関する明細書」中の「判定基準となる株主等の株主数等の明細」の欄の控訴人一公及び同美恵子の所有株式数を昭和五一年以降毎年増加させてきた。

すなわち、控訴人一公及び同美恵子それぞれにつき、昭和五一年に一〇〇株の記載をしたのを最初に、以降昭和五六年まで毎年一〇〇株ずつ、同五七年及び同五八年に各六〇株、同六二年に各八〇株所有株式が増加した旨の記載がされ、同年の所有株式数は八〇〇株ずつとされ、平成四年まではこれと同様である。また、被控訴人三男自身については、昭和五一年の二八二〇株から同五五年の一二二〇株まで減少させ、以降同数としてきたが、同六二年に一四〇〇株とし、以後この株式数を維持してきたところ、平成五年からは三〇〇〇株としている(この記載に伴い、平成五年においては、控訴人一公及び同美恵子の株主としての記載はされなくなった。)。控訴人カ子ヨについては、昭和五一年には一〇四〇株とされていたところ、同五四年に九四〇株、同五六年に八四〇株、同五七年に七二〇株、同五八年に六〇〇株と逐年減少してきたが、同六二年以降は八〇〇株とされており、控訴人三一については、昭和五一年以降終始一〇〇〇株とされている(現在、控訴人カ子ヨが八〇〇株、同三一が一〇〇〇株の株式を所有していることは、当事者間に争いがない。)。映里子については、昭和五一年に一〇〇株の記載をしたのを最初に、以後昭和五八年まで毎年一〇〇株ずつ、同六二年に二〇〇株所有株式が増加した旨の記載がされ、同年以降の所有株式数は一〇〇〇株とされている。更に、被控訴人三男の長女嶺子及び二女の賜子については、昭和五一年に各一〇〇株の記載をしたのを最初に、以後昭和五四年まで毎年一〇〇株ずつ増加した旨の記載がされ、同年以降の

所有株式数は四〇〇株ずつとされていたが、同六二年には削除され、同年以降は、碵男の妻侑子名義で八〇〇株と記載されている。

また、被控訴人三男がその本人尋問(原審)において被控訴会社の株主名簿の記載に基づいて作成されたものであることを認めている甲第一号証には、控訴人一公及び同美恵子が昭和六三年六月三〇日現在被控訴会社の株式各八〇〇株を所有している旨の記載がある。

(4) 被控訴人三男は、昭和五一年頃、当時未成年であった控訴人一公及び同美恵子の母(親権者)である大橋享子に対し、同控訴人らに被控訴会社の株式を持たせる旨の意思表示をした。享子は右の申出を了解して、夫の控訴人三一にその旨を伝え、同控訴人もこれを受け入れた(この認定に反する被控訴人三男の原審供述等は、いずれも採用できない。)。

(5) 被控訴人三男は、平成三年六月、控訴人カ子ヨを被告として、横浜地方裁判所小田原支部に同控訴人との離婚を求める訴えを提起したが、その訴状において、被控訴会社の株式の所有株数につき、被控訴人三男一四〇〇株、控訴人カ子ヨ八〇〇株であると主張し、同控訴人が提起した離婚請求反訴事件について提出した答弁書(平成五年一月一八日付)において、被控訴会社の株主構成について、被控訴人三男一四〇〇株、控訴人カ子ヨ八〇〇株のほか、控訴人一公及び同美恵子の所有株式数が各八〇〇株であること、更に映里子の所有株式が一〇〇〇株であることを認めた。これは、平成四年の前記確定申告書中の所有株式の数と一致している。

(6) 被控訴人三男は、被控訴会社の代表者として、平成四年一月一三日、各株主(控訴人一公及び同美恵子を除く。)に対して、本件総会を開催する旨の招集通知を発した際、控訴人三一に対し「一公、美恵子に対し、小生より将来において、若干の持株を與えるつもりであるものに付いては、小生が代理をいたします。」旨を記載した書簡(甲第三号証)を同封した。

(二)  前記認定の事実関係の下においては、被控訴人三男は、節税対策の意味も込めて、控訴人一公及び同美恵子に被控訴会社の株式を毎年順次取得させることとして、昭和五一年頃、同控訴人らの親権者である享子に対し、その旨を告げて同意を得た上(共同親権者である控訴人三一もこれに同意していた。)、同年から同六二年まで、前記の確定申告書において同控訴人らの所得株式数を増加させる都度、同数の株式を贈与し(合計八〇〇株)、同控訴人親権者においてこれを受け入れたものと認めるのが相当である。すなわち、被控訴人三男は、映里子が被控訴会社の株主であることを認めているが、映里子に対しても、右と全く同様の形式で贈与がされているところ、同控訴人らと映里子とを区別するに足りる合理的な根拠は見当たらないこと(映里子が子であり、一公、美恵子が孫であるとの点は、一公、美恵子への贈与の意思を否定するに足りる根拠として十分なものとはいえない。むしろ、前記のとおり、映里子が非嫡出子であることを思えば、映里子へ贈与するためにも、一公、美恵子への贈与が必要であったと推認することがむしろ合理的であると考えられる。)、その後の離婚訴訟においても、被控訴人三男としては、右贈与が有効であると認識していたものと推認できること(離婚訴訟における被控訴人三男の主張を、財産分与を念頭においた単なる方便とみることはできない。)からみて、右のように認定することが合理的と判断される。

なお、前記確定申告書において、嶺子及び賜子に対しても、同様の記載がされ、後にこれが削除されて侑子の持株とされていることは前記のとおりであるが、贈与の有無が争点とされていない嶺子及び賜子の例をもって、贈与受諾の意思表示をしていることが認定できる本件一公、美恵子の場合の贈与を否定する間接証拠とすることは適当ではない。また、被控訴会社では株券が発行されていないのであるから、意思表示のみに基づいて株式の権利移転の効力を生ずるのであって、前記確定申告書に記載されるたびに贈与が効力を生じたと判断することに支障はない。更に、贈与という無償行為の性質上、前記認定の程度の包括的な意思表示の合致をもって贈与契約の成立を肯定することも許されるものと解すべきである。

以上の次第で、贈与の事実を否定する被控訴人三男に対し、被控訴会社の各八〇〇株の株主権の帰属確認を求める控訴人一公及び同美恵子の請求は、理由があるものとして認容すべきである。

2  本件各決議取消しの訴えについて

(一)  事実関係

証拠(甲第二号証、第五号証、第一一号証の一ないし三、乙第二ないし第四号証、第六号証、第二一号証、第二三号証、控訴人大橋カ子ヨ本人[原審]、被控訴人本人兼被控訴会社代表者大橋三男[原審第一、二回])を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 被控訴会社は、東京都台東区浅草橋一丁目七番二号に本店を置き、同所で営業をしていたところ、昭和六〇年一一月、同所所在の本店ビルを売却し、以後、肩書地の埼玉県春日部市緑町六丁目一七番三〇号所在の工場兼事務所で営業を行うようになった。しかし、当時、春日部市には類似商号の会社があり、直ちには同所への本店所在地を移転する旨の登記手続をすることはできず、本件総会が開催された時点における商業登記簿上の本店所在地は、未だ従来のままであった。

(2) 被控訴人三男は、被控訴会社の代表者として、平成四年一月一三日、各株主(控訴人一公及び同美恵子を除く。)に対して、同年一月二八日、肩書地所在の被控訴会社事務所において、本件総会を開催する旨の招集通知を発した。その際、被控訴人三男が控訴人三一に対し、控訴人一公及び同美恵子の株主権行使に関する書簡(甲第三号証)を同封したことは前記のとおりである。

(3) 同年一月二八日、前記肩書地で本件総会が被控訴人三男を議長として開催された。被控訴人三男、控訴人カ子ヨ、同三一のほか門倉昭子(八〇〇株)、門倉洋一(三〇〇株)、吉田代子(三〇〇株)が株主として出席した。被控訴人三男は、予め、控訴人カ子ヨ、同三一、同一公及び同美恵子を除くその他の株主から議決権行使を同被控訴人に委ねる旨の委任状を取得していた。

大橋享子が、本件総会に来場し、控訴人美恵子(当時は未成年者である。)の戸籍抄本を示して、同控訴人の法定代理人親権者としての資格で本件総会に出席することを求めたところ、被控訴人三男は、この要求を拒否することなく、入場を認めた。

(4) 被控訴人三男は、委任状提出者を含め、株主一二名全員(一万株)の出席があったものとして本件総会の議事を進行させ、本件定款変更決議及び本件取締役選任決議につき、それぞれ可否を問うたところ、控訴人カ子ヨ及び同三一が反対したので、これらは、賛成一〇名(八二〇〇株)、反対二名(一八〇〇株)の賛成多数により、それぞれ可決されたものと判断した。なお、享子は、いずれの決議に対しても反対の意思を表明したが、被控訴人三男は、これを控訴人美恵子の反対の投票として取り扱わず、賛否の計算の関係ではこれを無視した。

右の議決が終了した後、控訴人三一が、被控訴人三男に対し、予め用意してきた控訴人一公及び同美恵子の作成名義の委任状を提出したが、被控訴人三男から、右委任状には受任者等の記載がないとの不備を指摘されると、それ以上は、控訴人一公らの代理人としての権利主張をすることはなかった。

そこで、被控訴人三男は、本件総会を終了させた。本件総会の議事録は、被控訴人三男の認識に沿って作成された。

(5) 控訴人らは、平成四年四月一七日、本件各決議の取消しを求める本訴を提起した。

(二)  本件各決議の効力について

(1) 控訴人一公、同美恵子の当事者適格

前記のように、控訴人一公、同美恵子は被控訴会社の株主であるから、本件各決議の取消しを求める本訴につき、当事者適格を肯定すべきである。

(2) 本件総会の招集場所と本件各決議の効力

株主総会は、定款に別段の定めがある場合を除くほか、本店の所在地又はこれに隣接する地に招集することを要する(商法二三三条)ものであるところ、被控訴会社の定款に別段の定めがあることについての主張・立証はなく、本件総会が右場所に該当しない被控訴会社肩書地に招集されたことは前記のとおりであるから、本件各決議は、本件総会招集の手続に同条項に違反する瑕疵があったものというべきである。

しかしながら、本店所在地を肩書地に移転する登記手続がされなかった理由は前記認定のとおりであって、肩書地が長年被控訴会社の営業の本拠として機能していたことは、全ての株主において十分認識できていたものと推認できること、現に、本件総会には、代理人を含む株主が困難なく出席したこと等の事実を総合すると、右の瑕疵は、重大なものではなく、かつ、決議の結果に影響を及ぼさなかったものと認められるから、本件各決議を取り消すべき事由とはならないものというべきである(商法二五一条)。

(3) 本件各決議の有効性

前記の認定事実によれば、被控訴会社においては、本件各決議は、委任状により被控訴人三男に議決権行使を委ねた者を含めて株主一二名全員(一万株)が出席した本件総会において、控訴人カ子ヨ(八〇〇株)及び同三一(一〇〇〇株)の反対以外の全員八二〇〇株の賛成多数によって議決されたもの(控訴人一公及び同美恵子名義の合計一六〇〇株は、被控訴人三男が自己の所有株式として権利行使した。)としていることは明らかである。

しかしながら、前記認定のとおり、被控訴人三男は、控訴人一公及び同美恵子に対し、各八〇〇株ずつを贈与していたものであるから、右の被控訴会社の取扱いは妥当とはいえない。むしろ、前記の事実関係によれば、控訴人美恵子の八〇〇株については、享子(共同親権者三一とともに)が、法定代理人として出席し、本件各決議について反対したものと認めるべきであり、同一公の八〇〇株については、被控訴人三男において議決権を行使すべき権限を有していたものということはできず、また、控訴人三一が委任状を議長である被控訴人三男に提出したのは、各決議の議決が終了した後であり、当該委任状に基づく議決権の代理行使が主張されたものとはいえないから、結局、当該株主の代理人は本件総会に出席しなかったものとして取り扱うのが相当というべきである。

そうすると、本件総会に出席した株主の株式総数は九二〇〇株となるところ、本件各決議は、控訴人カ子ヨ(八〇〇株)、同三一(一〇〇〇株)及び同美恵子(八〇〇株)の三名の反対(合計二六〇〇株)を除く六六〇〇株の賛成を得たものということになる。そして、定款変更決議の議決には、商法三四三条所定の特別決議の要件を充たすことを要するものであるところ、右六六〇〇株の賛成は、出席株主の株数九二〇〇株の三分の二以上の多数に相当するものであることが明らかであるから、本件定款変更決議の議決に十分な賛成数ということができる。また、取締役選任は、通常決議事項であるから、右数値は本件取締役選任決議の議決にも十分なものである。

以上のとおり、本件各決議の議決に際しては、控訴人美恵子の株式につき法定代理人による議決権行使を無視し、かえって、これを賛成票に加算したこと、及び、同一公の株式につき、出席株式数に加え、かつ、これを賛成票に加算したことは、決議の方法が法令に違反したものといわなければならない(本件各決議の瑕疵に関する控訴人らの主張は、以上の瑕疵に関する主張を包含するものと解される。)。

しかし、前記の事実関係を総合すると、右の瑕疵は、重大なものではなく、かつ、決議の結果に影響を及ぼさなかったものと認めるのが相当であるから、結局、本件各決議を取り消すべき事由とはならないものというべきである(商法二五一条)。

(4) 以上によると、本件各決議の取消を求める控訴人らの請求は、商法二五一条に基づき、決議の瑕疵にかかわらず、棄却するのが相当である。

四  結論

以上説示の次第で、本件控訴中、控訴人一公及び同美恵子の株主権確認請求に係る部分については理由があるから、当該部分の原判決は失当というべきである。そして、控訴人らの決議取消請求に係る本件控訴中、控訴人カ子ヨ及び同三一の請求部分については理由がなく、原判決は相当であるけれども、同一公及び同美恵子の請求部分については、当事者適格を否定し、訴えを却下した点において原判決は失当というべきであるが、当該請求に係る訴訟は控訴人カ子ヨ及び同三一の請求訴訟と必要的共同訴訟の関係にあり、かつ、原審は当該請求につき充分実体審理を遂げていると認められるから、これを原審に差し戻すことなく、当審において請求を棄却するのが相当である。

そこで、右の趣旨に沿って原判決を変更することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官今井功 裁判官淺生重機 裁判官田中壯太)

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